1年で株価6倍超え。半導体メモリ市場を席巻するキオクシア

半導体メモリ大手のキオクシア(旧東芝メモリ)が、株式市場で驚異的なパフォーマンスを見せている。2024年末に1640円だった株価は、2025年末の取引終了時点で1万435円に達し、わずか1年間で6.4倍もの急騰を記録した。
この上昇率は、世界の主要先進国株式の動向を示すMSCIワールド・インデックスの構成銘柄の中でもトップの成績だ。
この株価急騰の背景には、世界中で激化するAI開発競争がある。AIの学習や推論に必要なデータを保存するメモリ半導体、特に高速なSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)の需給が極めて逼迫しており、これがキオクシアの業績拡大への強い期待につながった。
本稿では、半導体受託生産最大手TSMCの好決算や、パートナー企業である米サンディスクの株価急騰といった業界全体の活況を背景に、キオクシアがなぜこれほどの成長を遂げたのかを分析し、今後の株価の行方を占う強気シナリオを解説する。

TSMCの好決算が示すAI需要の凄まじさ

キオクシアの成長を理解する上で、まず半導体市場全体のマクロ環境を押さえる必要がある。
その凄まじい需要を象徴するのが、半導体受託生産(ファウンドリ)で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の業績だ。
TSMCが発表した2025年12月期決算では、売上高が前期比31.6%増の3兆8090億台湾ドル、純利益が同46.4%増の1兆7178億台湾ドルと、いずれも2年連続で過去最高を更新した。
同社はAI向け半導体の生産をほぼ独占しているが、それでもトップが「生産能力は非常にタイト」と語るほど、爆発的な需要の伸びに供給が全く追いついていないのが現状だ。
この状況を受け、TSMCは2026年の設備投資として過去最高となる最大約9兆円の計画を発表しており、これはAI関連需要がいかに力強く、持続的であるかを物語っている。
TSMCが製造するGPUの爆発的な需要は、それと対で使われる大容量・高速ストレージの需要を必然的に押し上げる。AIサーバーという巨大な心臓(GPU)に、大量の血液(データ)を送り込む血管(メモリ)の役割を担うのがキオクシアのような企業なのだ。

なぜキオクシアの株価は急騰したのか?

市場全体の追い風が、なぜ特にキオクシアに強く吹いたのでしょうか。

その要因は、以下の3つの側面に集約されます。

米国の対中規制が追い風に

2025年9月、キオクシアの株価が急上昇する直接的なきっかけとなったのが、米国政府による対中半導体関連規制の強化だった。
これにより、NAND型フラッシュメモリ市場で競合する韓国のサムスン電子とSKハイニックスが持つ中国工場からの供給が減少するとの観測が市場に広がった。
世界トップ2社の供給が滞る分、その需要がキオクシアに流れ込むとの期待が一気に高まったのである。

AIデータセンター向けへの戦略的転換

キオクシアの経営陣は、先見性のある戦略的判断を下した。
需要が飽和しつつあったスマートフォン用メモリから、AIデータセンターなどのエンタープライズ向けストレージ事業へと、経営資源(ヒト、モノ、カネ)を集中的に再配分したのだ。
特に、AI開発に不可欠なGPUと組み合わせて使用する、処理速度の速い高性能SSDの開発を重視してきたことが、AI開発競争の激化という時流に乗り、見事に奏功した。

競合他社比での割安感

2025年9月ごろまで、キオクシアの株価は競合他社に比べて割安な水準で推移していた。
上場直後のPBR(株価純資産倍率)は1.4倍程度と、SKハイニックス(1.9倍)や米マイクロン・テクノロジー(2.7倍)を大きく下回っていた。
大手投資家が同社の成長性を見過ごしていたのには明確な理由がある。
東芝からの独立後、収益基盤が不安定な状況が続いたことに加え、NAND型フラッシュメモリ専業であるためHBM製造に必要なDRAM生産ラインを持たず、初期のAI関連需要を取りこぼした。
さらに、長江存儲科技(YMTC)など中国メーカーの追い上げも懸念材料と見なされていた。
この「割安感」があったからこそ、好材料をきっかけに株価が急騰する大きなポテンシャルを秘めていたと言える。

キオクシアの未来を支える3つの強み

一時的な急騰だけでなく、キオクシアの持続的な成長を期待させる強固な基盤が複数存在する。

次世代技術への先行投資と強力なパートナーシップ

キオクシアは未来を見据えた投資を積極的に行っている。

  • 次世代SSD開発: 米エヌビディアと共同で、既存機種の約100倍の動作速度を持つ次世代SSDを開発中。これは、AIの学習効率を左右するデータ読み込みのボトルネックを解消し、競合に対する決定的な優位性を築くための鍵となる投資だ。2027年の製品化を目指している。
  • CXL技術: データセンターのメモリ増設を容易にする次世代インターフェイス「CXL」の開発にも注力。これにより、データセンター事業者がサーバー構成を柔軟に変更できるようになり、キオクシア製品の採用機会が格段に広がることになる。2030年の実用化を計画している。
  • 大規模設備投資: パートナーである米ウエスタンデジタルと共同で、2029年までに三重県の四日市工場に計7300億円余りを投資する計画を発表。うち最大2430億円は経済産業省が補助を行う国家的なプロジェクトだ。
  • 「NAND専業」ならではの機動力

    NAND型フラッシュメモリ専業であることは、諸刃の剣だ。
    DRAM生産ラインを持たないため、AIブーム初期のHBM(広帯域メモリ)需要を取り逃がしたことは事実であり、投資家が懸念した点でもあった。
    しかし、この集中戦略がもたらすメリットは大きい。
    キオクシアHDの太田裕雄副社長が語るように「NAND専業のメリットはフットワークの良さ」にある。
    変動の激しいNAND市況に対し、DRAMなど複数事業を抱える競合と比べて迅速な経営判断が可能だ。
    実際に2022年後半の市況悪化時には業界に先駆けて減産に踏み切った。
    この機動力を活かし、AIデータセンター向け高性能SSDへと舵を切った戦略的ピボットが、現在の成功の礎となっている。

    米サンディスク株価急騰との連動性

    フラッシュメモリを共同で開発するパートナーであり、米ウエスタンデジタルから分社化された米サンディスクの株価急騰もキオクシアにとって追い風だ。
    サンディスクの株価は、ある日には5%超、別の日には27.5%もの急騰を見せるなど好調を維持している。
    パートナー企業の好調な株価は、事業の将来性に対する市場の信頼を反映しており、キオクシアの株価に対しても強力な刺激材料として作用し、連動して上場来高値を更新する一因となっている。

    結論:AI時代のメモリ需要を掴み、キオクシアの快進撃は続く

    AIデータセンターの拡大を背景とした世界的なメモリ不足は、今後もキオクシアの業績を力強く押し上げる追い風であり続けるだろう。
    同社が持つ「戦略的な事業転換」「次世代技術への投資」「NAND専業の機動力」という3つの強みは、この巨大な需要を取り込み、持続的な成長を達成するための強固な柱となっている。
    もちろん、NAND市況の周期的な変動リスクや、技術開発競争の激化といった懸念材料は常に存在する。
    しかし、それを補って余りあるほどの構造的なAI需要の波が、同社の成長軌道を支えるだろう。
    TSMCの記録的な好決算やパートナーであるサンディスクの株価動向が示すように、AIを中核とした半導体市場の活況はまだ始まったばかりであり、その中核を担うメモリメーカーとして、キオクシアの株価には依然として大きな上昇余地が残されていると結論付けられる。